その話はいくらなんでも無理でしょう

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20091228/1261960641

PledgeCrew 沖縄, 間違い SF講和条約で放棄した領土には沖縄を含む南西諸島は含まれてない。したがって同条約第三条での施政権の米国委託は領有権が日本にあることが前提。WWI後の旧独植民地の場合とは違う。安保はただの二国間条約、無関係 2009/12/28


「前提」というのは日本側の解釈で、中国(人民共和国)側はこれらの日米合意を「二国間条約」として否定する可能性がある(すでにその見解は一部出している)。また米国側は明示的に領有権については言及しておらず、おそらく日本との軍事同盟がなくなった場合、領有権についてさらに沈黙する可能性がある。もともと領有権は基本的に日本国の問題。竹島的な状況をどう扱うかという問題にやはり帰着する。

まずはサンフランシスコ講和条約から
http://www004.upp.so-net.ne.jp/teikoku-denmo/no_frame/history/kaisetsu/other/tpj.html

第二条【領土権の放棄】

(a)日本国は、朝鮮の独立を承認して、斉州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。


(b)日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。


(c)日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。


(d)日本国は、国際連盟委任統治制度に関連するすべての権利、権原及び請求権を放棄し、且つ、以前に日本国の委任統治の下に あつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の国際連合安全保障理事会の行動を受諾する。


(e)日本国は、日本国民の活動に由来するか又は他に由来するかを問わず、南極地域のいずれの部分に対する権利若しくは権原又はいずれの部分に関する利益についても、すべての請求権を放棄する。


(f)日本国は、新南諸島及び西沙諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。


第三条【信託統治

日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦(そふ)岩の南の南方諸島(小笠原群島、西ノ島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。


上記のとおり、日本が領有権を失った地域は列挙されています。したがって、その他の地域については、その時点では日本の領有権が引き続き認められたとするのは文理的に言って当然であり、アメリカが施政権を得た南西諸島の一部やその他の地域についてもそのように解釈できます。なお、「合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国」の提案は結局行なわれないまま、後段の規定に従って、アメリカが奄美、小笠原、沖縄など各地域の返還まで、ずるずると「行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利」を行使してきたというのが歴史上の経過です。


もし、この条約の規定どおり、アメリカが国連の信託統治領への移行を提案していたら、そこで話が変わっていた可能性はあります。しかし、国連への信託統治提案も行なわれぬまま、1972年に沖縄は返還*1されたのだから、アメリカは信託統治の提案権を放棄したのであり、領有権の問題はそこで最終的に解決されたとするのも国際的に見て当然に妥当な話でしょう。したがって、沖縄の領有権について、「アメリカが過去に明示的に言及していない」というのがかりに正しいとしても*2、そのことにはなんの意味もないと言うべきでしょう。


また、多国間条約だったサンフランシスコ講和条約*3と違って、沖縄返還協定は当然ながら日米間の二国間条約です。アメリカは国連への沖縄の信託統治を提案しなかった以上、それは当然でしょう。他の国については、その二国間条約を認めるか否かの自由はあるでしょうが、沖縄が国連の信託統治領にはならなかったのだから、旧連合国といえども沖縄の領有権について口を挟む筋合いはありません。どこかの国が返還協定を認めないとすれば、それは沖縄は依然としてアメリカの施政下にあると主張するということにしかなりません。かりに日米安保が廃棄されたからといって、そういう主張をアメリカが容認したり、領有権の話を蒸し返したりするのはただの背信行為にしか過ぎないでしょう。そもそも、返還協定が結ばれたときの裏事情と、いったん結ばれた協定の法的効果とは別の話です。


たしかに、中国はサンフランシスコ講和条約に調印していません。当時の中華民国との間には、翌年に日華平和条約*4が締結され、その後、日中国交回復に伴って同条約は破棄されています。しかし、日中平和友好条約*5で、とりあえずは「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする」と謳われており、また現在の日中関係を考えても、中国がたとえサンフランシスコ条約に署名していないからといって、いきなり歴史的経緯や現実の状況を無視した無茶を言い出すとは考えにくいでしょう。


むろん、「おれたちはそんなものは認めない!」と言うのは、いつの時代でも自由ではあります。しかし、そもそもすでに韓国が実効支配していて、おまけに定住者もいない竹島の問題と沖縄の問題とを同列に並べて論じるというのが理解に苦しみます。そのためには、中国が沖縄に侵攻し、竹島に対する韓国と同様の実効支配を確立するというのが前提になるでしょう。だいいち、日本に対してそのような主張を中国やアメリカがするのに、いったいどのような外交的利益があるのでしょうか。また、そのような無茶な主張に、いったいどこの国が賛同し、支持するのでしょうか。


ただの外交的な脅しだとしても、相手を脅かすには、そこにそれなりの現実性がなければ意味がありません。非現実的な脅しなら、「やってみれば」と言えばすむだけの話、その度胸がこちらにあるかどうかというだけのことでしょう。finalventさんが書いていることはほとんど妄想に近い、ただの架空の話にすぎないとしか言いようがありません。現実性のない危機アジりの類にはあまり感心しません。「可能性」というなら、そりゃいろんな可能性があるでしょう。理屈なんてものも、つけようと思えばいくらでもつけられるでしょう。しかし、そういう無理筋の理屈を押したてた危機アジりというのは、むしろ昔は「左翼」の専売特許だったように思いますが。なにかといえば、「ファシズムがくるぞ!」とか、「軍国主義が復活するぞ!」とか。あるいは十年恐慌説や万年危機説とか。

*1:沖縄返還協定 http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19710617.T1J.html

*2:もし、そうだとすればそもそも72年の沖縄返還とはなんだったのか、そこでアメリカから日本に返還されたのは、沖縄に関するいかなる権利だったのかという話になるでしょう。もっともfinalventさんは、まさにそういう話がしたいのかもしれませんが。

*3:ソ連や中国、インドなどが調印しなかったため、当時は「革新」陣営から「片面講和」という批判を受けている。

*4:http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19520428.T1J.html

*5:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_heiwa.html この条約については、たしかに具体性に欠けた抽象的条文が多いということは言えますが。