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 「美しい魂」を持った人

 彼は清廉で、私心のない、恐れを知らない人間だった。つねに弱い者、悩んでいる者への同情に心を動かされる、深い詩的な感受性の持ち主でもあった。だが、同時に、主義へのひたすらな献身から一種の狂信者になっており、主義のために必要だと確信したかぎりはどんな恐怖行為でもやってのける人物でもあった。

 自分の高い理想主義と日常の屠殺仕事とにはさまれた絶えまない緊張のうちに、神経を張りつめて暮らし、生命力を炎のように燃え尽きさせた感じだっただけに、同志たちからはサヴォナローラ型の風変わりな「革命の聖者」と見られていた。

 そうした清廉な性格にたくましい判別力のある知力が結びついていなかったのは、彼の場合不運なことだった。彼は主義に奉仕しないではいられない人間であり、彼はその主義と自分の選んだ党とを同一視し、やがてはその党とその指導者たちとを同一視するようになった。


ロシア革命直後に設立されたチェーカー(全ロシア非常委員会)で長官を務めた、ポーランド出身の革命家、フェリックス・ジェルジンスキーについての、アイザック・ドイッチャーのトロツキー三部作第二部『武力なき予言者』からの引用