民主党はどこへいく

仕事でバタバタしていた間に、世の中ではいろんなことが起きていたようだ。鳩山弟の友だちの友だちがアルカイダであることや、彼が田中角栄の私設秘書時代にペンタゴンから毎日のようにただ飯をおごって貰っていたことが判明し、日本シリーズでは落合率いる中日が、海の向こうでは岡島と松坂が在籍するレッドソックスが優勝した。

と思ったら、今度は福田首相小沢民主党党首の会談で 「大連立」 構想が話し合われ、党の役員会で 「大連立」 を拒否された小沢党首が辞任を申し出るという、まさに波乱万丈・疾風怒濤の展開となった。

正直なところ、前首相の退陣以来、ごちゃごちゃした政局なんぞには、あまり興味がなくなっていたのだが、そう呑気なことばかりも言っていられないような状況のようである。


党首が辞任をちらつかせて党を脅しつけるということは、政治の世界では珍しいことではない。E.H.カーによれば、ドイツとの講和に頑強に反対する党内左派の説得にてこずったレーニンも、一度だけ政府からの辞職という脅しを使ったことがあるそうだ。

ただ、こういう脅しは当人が党内だけでなく、国民一般に対しても圧倒的な権威を持っているからこそ有効な手段なのである。民主党は小沢党首の慰留に努めているようだが、これはむしろ、なんだかんだ言っても、結局は小沢氏に頼らざるを得ない民主党の情けなさをさらけ出しているだけのようにも見える。

今の民主党には、次の選挙に勝つ力も政権を担当する能力もない、という小沢氏の判断はたぶん間違っていないだろう。小沢氏には、先の参院選挙での勝利に浮つき、獲らぬ狸の皮算用のようなことを言っている若手らへの苦々しい思いがあったのだろうと思う。

ただし、そういうことを党内で議論することと、いきなり記者会見で言っちゃうこととは、全然別の話なのであり、そんなことをあっさりと会見で言った小沢氏の辞職という意思は、やはり脅しではなく本気だったのかもしれない。


こういう話が出てくると、裏で動いたのは誰だとか、どこが圧力をかけたのかとか、実はこういういう意図があったのだ、とかいうまことしやかな話が必ず出てくる。その中には、たぶん正しいものもあるだろうが、間違ったものもあるだろう。

友だちの友だちにアルカイダもいなければ (たぶん)、有力な政治家や情報通もいない一般国民としては、そういう情報がいろいろ出てきても、どれが正しくどれが間違いなのかなんて分かるはずもない。
 
情報はむろん多いほうがよいには決まっているが、真偽を確かめようもない情報にもとづいてあれこれ推測するのは、あまり意味のあることではない。こういうときは、結局 「人間」 とか 「政治」 とかいうことについての洞察だとか、歴史の教訓だとかにもとづいて考えてみるしかないだろうし、そのほうがたぶん大きな間違いをすることも少ないのではと思う。

今の福田政権がそう長く続くとは思えないが、現在の衆参両院の 「ねじれ現象」 がそう簡単に解消されるとも思えない。このねじれを解消する方法の1つは、言うまでもなく次の衆院選挙で野党が勝利することだが、先の郵政選挙議席数が伸びきった政府・与党が、政局が行き詰ったからといって、そう簡単に解散をするとは考えられない。

与党にとっての問題は、参院過半数を失っていることなのだから、衆院選挙ではなにも解決しないし、与党が解散総選挙で今以上に議席を増やすといったことも考えられない。とすれば、宮沢内閣の時のように与党の分裂でも起きない限り、解散など当分はありえないのではないだろうか。


その一方、先の参院での民主への風が、そんなに先まで続くとも考えられない。安倍政権時代のぶざまな記憶が薄れかかり、福田政権の舵きりがそれなりにうまくいけば、いったん自民党を離れた支持者も、いづれは戻ってくるだろう。そうなると、小泉時代自民党を追放された離党組も、ぼちぼちと戻ってくるだろうし、政治の手詰まり打開を理由に、与党側へ鞍替えする議員も出てくるかもしれない。

「大連立」 に色気を出した小沢氏には、たぶんそういうことへの憂慮もあったのではないかと思う。ただ、今の衆議院選挙制度では、それはありえないことだ。


結局、衆参の 「ねじれ現象」 は当分続くことを前提とせざるを得ないわけで、そのためには党首同士の会談や、党同士の政策協議などが必要になることも否定できない。

しかし、もう1つ重要なことは、それぞれの院で多数を持っている与党・野党ともに、一つ一つの政策や法案ごとに、国会全体での多数派形成の努力をすることではないだろうか。憲法を持ち出すまでもなく、国会議員は国民に対して責任を負っているのであって、党に責任を負っているわけではない。

 自民党民主党も、たしかに党内がばらばらで、いったいなにが党の原則なのかも分からないという状態であり、これはこれで困ったものではあるが、どんなに団結が強固な党だって、現代の複雑な政治課題について、なにからなにまで党内の意見が一致するといったこともありえないだろう。

だとすれば、今の国会の 「ねじれ状況」 を打開する最良の方法は、重要法案はともかくとして、お互いに妙な 「党議拘束」 などはなるだけ外して、一人一人の議員が一つ一つの法案ごとに自分自身で判断し、投票できるという状況を作り出すことではないのだろうか。

自分の意見などなにもなく、ただ幹部の言いなりで 「賛成」 だ 「反対」 だというような無能な政治家ではなく、自分の頭で考え判断するだけの能力を持った政治家を育てるためにも、これは必要なことだろう。また、それによって、誰がいいかげんな議員であり、誰がそうではないかを、有権者が一人一人区別し判断することも可能になるだろう。「政界再編」 なんて大技よりも、そのほうが最終的には政治の信頼回復につながるのではないだろうか。


追記: 辞意撤回だそうだ。
小沢代表も頭を冷やしたということなのだろうが、はたしてこれまでと同じような、「政権交代」 に向けた熱意が保たれるかは疑問だ。