警句

根拠のない手前勝手な似非心理分析に基づいた、「自分だけは分かっている」といったふうの俯瞰を気取った超越的立場の表明や、人生訓めいたただの抽象的な自責の言葉、あるいは一読すると気が利いたように見えなくもない高説や能書きめいた台詞のような、具体性を欠いた曖昧模糊とした言説は、一見するとなにやら深遠なことを言っているように思える。
しかし、それは霧に包まれ、あるいは闇に包まれて一寸先も見えない空間がなんとなく無限の広がりを持っているように思えたり、底の見えない濁った沼が、なにやら底なしの深さをもっているように見えるのと同じである。
霧や闇に目が慣れたり、あるいは霧が晴れ、闇の中に光が射しこむと、無限に思えた空間が、実はただのちっぽけな閉ざされた空間にすぎないことに気付くこともあれば、傍らから眺めていただけでは底なしに思えた濁った沼の場合でも、実際に足を踏み入れてみると、その思いのほかの浅さに驚くこともある。
むろん、そのような言説といえど、ときには正しいことを言うこともある。しかし、そのような「正しさ」などは、たんなる当たり前の「正しさ」にもったいぶった修辞を被せたものにすぎない。
要するに、たいていの場合、そのような深遠さはただの錯覚であり、せいぜいのところ自己顕示のための素人騙しのこけおどしにすぎないのだ。